ザクロやベリー類に含まれるエラグ酸の代謝物ウロリチンAは筋機能を増加させる。

筋骨格研究

 今回まとめるのは、2016年に発表されたスイス連邦工科大学のオーウェル教授の研究グループが発表した論文です。ウロリチンAと呼ばれるザクロやベリー由来の天然因子の腸内細菌代謝物が、筋の機能を改善させるという大変素晴らしい論文です。

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Urolithin A induces mitophagy and prolongs life span in C.elegans and increases muscle function in rodents ウロリチンAは線虫においてマイトファジーを誘導し寿命を延長させ、げっ歯類において筋機能を向上させる

ウロリチンAとは?

 カテキンやリコピンなどと違って、ウロリチンAはあまり聞き覚えがないかと思います。これはベリー類やザクロなどに含まれるエラグ酸と呼ばれる天然因子(抗酸化物質)が腸内細菌により分解された代謝物の1つです。ウロリチンAだけでなく、ウロリチンB、C、Dと4種類あります。これらは水酸基の数が違います(A: 2個、B: 1個、C: 3個、D: 4個)。今までに、抗がん作用や抗炎症作用などが報告されています。

また、最近海外でヒトにおける第Ⅰ相治験が行われたようです。Nature metabolismにてその結果が発表されました。→ The mitophagy activator urolithin A is safe and induces a molecular signature of improved mitochondrial and cellular health in humans

本論文では、ヒトにおけるエラグ酸の主な代謝物であるウロリチンAに着目して、その効果を検討した。

加齢による変化

加齢によるミトコンドリア機能の喪失

ミトコンドリア機能の低下
 正常なミトコンドリアは、細胞内エネルギー産生や代謝に必要不可欠です。ですが、ミトコンドリアの機能は、加齢によって徐々に低下していきます。これは、ミトコンドリアダイナミクスやマイトファジー、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異などと関連しています。
※ミトコンドリアDNA: 核でなくミトコンドリアが持つDNAで、ミトコンドリアで行われる代謝に関与する因子などの遺伝子情報を持っています。

タンパク質恒常性の減衰
 タンパク質は合成および分解により、細胞内における様々な機能が調節されています。加齢によるこのタンパク質恒常性の減衰は主にオートファジーの減少が起因となっています。

マイトファジー
 これら二つの加齢による変化を結びつける減少として、マイトファジーと呼ばれるものがあります。オートファジーの一種で、マイトファジーは異常なミトコンドリア(例えば、損傷したミトコンドリアなど)を選択的に除去するオートファジーです。 異常なミトコンドリアの蓄積は、細胞にとって毒になります。しかしマイトファジーによってそれが除去されると、ミトコンドリアダイナミクスによるミトコンドリアの分裂・融合が活発になり、細胞が元気になります。骨格筋におけるマイトファジーの減少は、老齢でのフレイル(身体機能の低下、高齢者の虚弱)に関与しています。

 オートファジーは、2016年にノーベル生理学・医学賞(東京工業大学・大隅先生)にも選ばれた細胞内の現象です。細胞が飢餓にさらされると、自分自身を分解することで、生き残るためのエネルギーをつくります。その際に、分解するものはランダム(非選択的)で決められます。また飢餓時のエネルギー補充以外にも、不必要なものの除去・掃除なども行っており、この現象をオートファジーと呼びます。
 近年は、マイトファジーなど選択的に分解するオートファジーも発見されており、脂質や小胞体、病原体の除去など様々な役割をもっています。

線虫(C.elegans)に対するウロリチンAの作用

マイトファジー誘導作用(線虫)
  • エラグ酸は効果示さないが、ウロリチンAは寿命延長作用(約45%ほど)を示した(ウロリチンBやCも同様)。
  • 絶食とウロリチンAの関係はなかった。
    ※絶食により線虫は寿命が延長する(Sirtuinと呼ばれる抗老化因子などが関与)。
    ※Sirtuin: 赤ワインに含まれるポリフェノールのレスベラトロールがSirtuinの活性化因子と報告され、一時期有名になった抗老化遺伝子
  • 若年の線虫において、短期間のウロリチンA投与は、ミトコンドリア量を減少させた。一方、呼吸(エネルギー産生)には影響を与えなかった。長期間のウロリチンA投与では、ミトコンドリアの生合成が増加した(ミトコンドリア量を元に戻そうとする反応)。
  • ウロリチンAによりマイトファジーが誘導された。
  • ミトコンドリアROSの除去でも寿命延長はするが、ウロリチンAはミトコンドリアROS量には影響を与えなかった。
    ※ROS:活性酸素種 いわゆる身体に対して悪影響を及ぼす物質
  • ウロリチンAによるマイトファジーの誘導により、 加齢によるミトコンドリアの機能低下・運動機能の低下・筋線維の縮小が改善した。
マイトファジー誘導作用(哺乳類細胞)
  • ウロリチンAにより、マウス筋細胞(C2C12)でマイトファジーが誘導された。
  • AMPKαのリン酸化が増加した。
    ※AMPKα:オートファジーの誘導に関与するタンパク質
  • ウロリチンAとROSの関与はなかった。
  • ウロリチンAにより、ミトコンドリア膜電位が低下することでマイトファジーが誘導されていた。
筋肉機能の改善作用(哺乳類;げっ歯類)
  • 高脂肪食を与えて長期間飼育したマウス(肥満マウス)にウロリチンA混合餌を摂食(50 mg/kg/day)させたところ、体重や脂質代謝、筋肉量などには影響を与えなかった(筋肉量は増えなかった)が、筋肉の機能が向上した。
  • 老齢マウスにおいても同様にウロリチンA混合餌を摂食させたところ、体重や体組成に変化はなかったが、筋肉の機能が向上した。
  • 若齢ラットにウロリチンA混合餌(25 mg/kg/day)を与えたところ、マウスの実験と同様に筋肉の機能が向上した。
  • ウロリチンA摂取により、腓腹筋(ふくろはぎの筋肉)のAMPKのリン酸化およびオートファジーが亢進した。一方、ミオシン重鎖の発現量・ROS産生量に変化は認められなかった。

まとめ・コメント

まとめますと、ウロリチンAは線虫・哺乳類細胞・げっ歯類において、マイトファジー(異常なミトコンドリア除去)を誘導することで、筋肉の機能を改善させることが明らかになりました。また、ウロリチンAの筋機能改善作用において、筋の量ではなく筋の質を向上させることが示されました。

これらウロリチンAの効果が出るのに必要な摂取量は、ヒト換算で4 mg/kg/dayです。つまり、体重60 kgの場合、1日240mg 摂取すればいい、ということです。

 小さじ一杯で、砂糖3g、塩5gということなので、1日当たり、小さじ一杯の1/10量のウロリチンAを摂取すれば筋機能の改善が見られる可能性があります。ただし、これはウロリチンAそのものの場合です。実際に、ザクロジュースとして換算すると、1 L以上を毎日飲むということになります。また、ヒトによってはエラグ酸をウロリチンAに変換する腸内細菌が少なかったりする場合もあると思います。

 つまり、ウロリチンAのサプリメントという形での摂取が有効となります。240 mgというのは決して多すぎる量ではないと思うので、日々無理なく摂取することができ、それを数年数十年と続けることで、筋機能の向上や加齢によるフレイル予防に非常に有効である可能性があります。

 食べるだけで、筋肉量が増える!といったものは今のところありませんが(もしあったらドーピングになってしまいますね…)、筋肉の機能が改善するというのは面白いと思います。去年くらいに、早稲田大学の鈴木克彦先生の研究グループの論文(Scientific Reports)にも、天然因子が筋肉機能を改善したというものがあったと思います。超高齢化を迎える日本では、若いころからサプリなどで対策をとっておけば、生活習慣病やフレイルを予防できうるということで非常に面白い論文だな、と思いました。

筋骨格研究食品因子
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生命・健康科学を4コマ漫画を交えてまとめていく。

コメント

  1. […]  前回のザクロ由来の天然因子が筋機能を向上させる、と同じように、タヒボポリフェノールも筋機能を向上させるということが分かりました。そして、どちらも機能は向上させるが、筋肉の量そのものには影響しないとのことです。これらを皮切りに、他の天然因子、例えば茶カテキンなどでもどこかで筋機能への作用の実験が実施されているかもしれませんね。 […]

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