長寿遺伝子SIRT1による筋細胞膜の修復作用

筋骨格研究
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SIRT1 deficiency interferes with membrane resealing after cell membrane injury | SIRT欠損は細胞膜損傷後の膜修復を妨げる

今回は札幌医科大学の堀尾教授の研究グループが発表した論文です。
論文 → https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31242212

この論文によって、細胞膜修復とSIRT1の関連が明らかになりました。

筋ジストロフィーについては、以前にまとめてありますので、興味がありましたら下記参考にお願いします。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者を対象としたエキソン・スキップ治療薬(NS-065/NCNP-01)の全身投与の試験結果
Systemic administration of the antisense oligonucleotide NS-065/NCNP-01 for skipping of exon 53 in patients with Duchen...

本論文のハイライト

  • NAD+依存性脱アセチル化酵素SIRT1は筋細胞膜の直下に高発現している。
  • 筋特異的SIRT1欠損 (SIRT1-MKO) マウスは筋ジストロフィー様の症状を示した。
  • SIRT1-MKOマウスは筋力・筋持久力が低下しており、筋細胞膜の脆弱になっていた。
  • マウス筋芽細胞C2C12において、SIRT1阻害やノックダウンにより膜損傷部への膜小胞の集積が妨げられた。

これらの結果より、SIRT1は膜障害後の膜修復過程において重要な役割を担っていることを世界で初めて明らかにした。

筋ジストロフィーはジストロフィン欠損によって細胞膜が非常に脆弱になり、SIRT1活性化はこの症状を改善します。本論文では、そのSIRT活性化による筋ジストロフィー症状の改善の分子機構の一端を明らかにした。

筋細胞膜の重要性

骨格筋や心筋は収縮と弛緩を繰り返しており、それにより細胞膜の損傷および修復が常に行われています。細胞膜の損傷はただちに膜修復機構により修復されます。膜修復機構では、膜損傷部からのカルシウム流入がトリガーとなり、カルシウム依存性タンパク質分解酵素であるカルパイン3などが活性化し、膜修復が促されます。
※カルパイン3の変異は、肢帯筋ジストロフィーが引き起こされることが報告されています。

Fアクチンおよびカルシウムやリン脂質と相互作用するタンパク質であるアネキシンなども膜損傷部に集積し、膜修復に関与します。

ジスフェルリンは負電荷をもつリン脂質に結合することができます。ジスフェルリンを内包した細胞内小胞が膜損傷部に集積し、大きな小胞を形成し膜を修復します。ジスフェルリンは、膜修復に必須の因子であるミツグミン53 (MG53) とカベオリン3と結合することもできます。これら因子の欠損は、 肢帯筋ジストロフィー を引き起こすことが報告されています。

SIRT1

Peter Attia, sirt1 functions より

サーチュイン(sirtuin)は、一時期、赤ワインに含まれるレスベラトロールにより活性化される抗老化(長寿)遺伝子として有名になりました。レスベラトロールとはポリフェノールの一種で、ブドウの果皮などに含まれています。SIRT1はサーチュインの中でも特に研究が進んでおり、様々な疾患の抑制因子として報告されています。

アセチル化・脱アセチル化

SIRT1は主に核に局在しており、ヒストンや転写因子などの核タンパク質を脱アセチル化する酵素です。

ヒストンは長いDNAを折りたたんでコンパクトにしています。ヒストンにDNAが巻き付き、さらに折りたたまれ、クロマチン構造という構造をとっています。負電荷を持つDNAは、正電荷を持つヒストンに強く巻き付きます。

ヒストンのアセチル化というのは、正電荷を持つ部位にアセチル基が結合することで、ヒストンの電荷をなくします。すると、DNAとの巻き付きの強さが弱くなり、緩んだ構造をとるようになります。そこに転写因子などが結合するようになり、遺伝子発現が促されます。

一方、脱アセチル化はそのアセチル化を除去する反応です。それによりヒストンが正電荷を持つようになり、負電荷のDNAと強く巻き付き、締まった構造をとるようになります。そうすると転写因子などが結合しにくくなり、遺伝子発現が抑制されます。

転写因子などのタンパク質のアセチル化・脱アセチル化も同じような感じです。正電荷の有無によりタンパク質の構造が変化し、DNAに結合しやすい構造になったり、または逆にDNAに結合しにくい構造になったりします。

SIRT1と骨格筋

SIRT1は核だけでなく細胞質にも存在し、細胞質のタンパク質の作用を調節することも知られています。骨格筋の細胞にもSIRT1は発現しており、以下の作用を持つことが報告されています。

  • インスリン感受性の亢進
  • ミトコンドリア機能の改善
  • 速筋から遅筋への変化
  • 筋萎縮遺伝子の抑制

デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)において、SIRT1を過剰発現させると、筋萎縮の病態の緩和血中クレアチンキナーゼの減少運動能力の向上などが認められるようになります。SIRT1活性化因子のレスベラトロールをmdxマウスに経口投与しても、同様の病態緩和が見られるようになります。一方で、SIRT1ノックアウトマウスでは筋萎縮の症状があらわれます。

これら筋に対するSIRT1の詳細な分子機構はいまだ不明な点が多いです。そこで本論文では、筋細胞膜の損傷・修復に着目し、SIRT1の役割について明らかにしました。
※筋ジストロフィーでは、細胞膜を支えるジストロフィンが欠損しているため、筋細胞膜がすぐに損傷し細胞が弱ってしまうために筋萎縮が引き起こされます。

SIRT1-MKOマウスの解析結果

  • 野生型マウスにおいてSIRT1は核と細胞質だけでなく、細胞膜の直下にも局在していた。
  • SIRT1-MKOマウスでマイルドな筋萎縮症状が認められた。
  • SIRT1-MKOマウスで筋脆弱性(筋持久力や筋力の減少)が見られた。
  • C2C12(マウス筋芽細胞株)細胞にて、レーザーで細胞膜を損傷させ、細胞膜修復課程を観察したところ、細胞膜損傷部に小胞が集積し、細胞膜が修復された。一方、SIRT1の働きを抑制すると、小胞が集積しなくなり細胞膜の修復もされなかった。

まとめ・コメント

筋ジストロフィーで筋細胞膜がダメになるという話はよく聞きます。筋細胞膜がダメになるから、核酸医薬などの薬が入りやすい(つまり健康な細胞は核酸医薬が細胞の中に入らないため、副作用などが少ない)、という話も聞いたことがあります。

SIRT1は今ではかなり研究が進み、骨粗鬆症など様々な疾患の抑制因子として知られるようになりました。そのほとんどは核内で、ヒストンや転写因子の脱アセチル化を介した遺伝子発現の調節だったかと思います。

本論文では、細胞質の中でも特に細胞膜の直下に存在しており、膜修復に必要な小胞のリクルートなどを担っているという点が面白いなと思いました。もちろん、今後、具体的にSIRT1が何を標的としてどんな作用で膜修復を行っているかについての研究が必要であり、札幌医科大学の研究グループもすでに取り掛かっているかと思います。
なかなか難しいとは思いますが、筋ジストロフィーの治療薬の候補として、SIRT1活性化剤が挙がる日がくるかもしれませんね。

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