デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者を対象としたエキソン・スキップ治療薬(NS-065/NCNP-01)の全身投与の試験結果

筋骨格研究
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Systemic administration of the antisense oligonucleotide NS-065/NCNP-01 for skipping of exon 53 in patients with Duchenne muscular dystrophy.デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に対するアンチセンス核酸医薬NS-065/NCNP-01の全身投与

 今回紹介するのは、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(National Center of Neurology and Phychiatry ;NCNP)と日本新薬株式会社が開発を進めているデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy; DMD)患者を対象とした治療薬の医師主導早期探索的臨床試験の結果をまとめた論文です。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)とは?

A. 健常な骨格筋 B. DMDの骨格筋

 デュシェンヌ型筋ジストロフィーとは、最も一般的な筋ジストロフィーであり、幼少期(2~3歳)の男児で多く発症する遺伝的要因が原因となる疾患です。全身の筋力低下により、徐々に歩行が困難になってしまい、車イスが必要となっていきます。年々、症状が進行していき、最終的(20~30歳) には横隔膜の筋肉にも影響が出て、呼吸障害などが引き起こされます。
 左図は、骨格筋の組織像になります。一つ一つの塊が筋線維です。左図Aに示すように、健常な骨格筋は綺麗に配列していることが分かります。しかし、筋ジストロフィーになると、左図Bのように筋線維が壊死などにより小さくなり、組織が破壊されていることが分かります。

画像参照元: https://www.researchgate.net/publication/283324238_Tailored_Pig_Models_for_Preclinical_Efficacy_and_Safety_Testing_of_Targeted_Therapies/figures

DMDの原因は?

 ジストロフィンと呼ばれる筋細胞に存在するタンパク質が欠損してしまうことが原因です。これはジストロフィン遺伝子の変異に起因するものであり、現在、ジストロフィン遺伝子の中でもエクソン3~8、45~55領域はこの変異・欠損が起こりやすいことが分かっています。
 ジストロフィンは非常に大きなタンパク質でありますが、骨格筋(腕や脚の筋肉など動かす筋肉のこと)に含まれる全タンパク質のたった0.002%しか存在しません。しかし、これが欠損してしまうと、重篤な筋線維壊死や筋力低下が引き起こされてしまいます。

ジストロフィン

筋細胞とジストロフィン

 ジストロフィン(左図, 青い線)は、筋細胞の細胞膜を支える役割を持っています。これが欠損すると、筋細胞が細胞の外からの刺激・負荷などに耐えられなくなり、ダメになってしまいます。

 デュシェンヌ型筋ジストロフィーはジトロフィンが完全欠損していますが、ジストロフィン遺伝子に変異があるものの、少なからずジストロフィンがちゃんと産生されている例もあります。ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)と呼ばれており、症状はDMDに比べて軽症です。中には高齢になるまで症状が出ない方や、サッカーなどスポーツができる方もいます。

エクソン・スキップ治療薬

 DMDの治療薬として現在広く使用されているのは、いわゆるステロイドホルモンです。DMD患者の筋組織像は上述した通りですが、この際にしばしば炎症(やマクロファージの浸潤)も見られます。ステロイドは炎症を強力に抑える薬であるため、筋組織の炎症を抑えることで症状を緩和させることができるとされています。ただし、副作用として体重増加や骨密度の減少などが挙げられます。

エクソンスキップ治療薬とは?

 ステロイド以外に筋ジストロフィーに効果的な薬はありませんでしたが、近年、核酸医療が注目されています。エクソン・スキップ治療薬とは、上図に示すように、通常、ジストロフィンは遺伝子変異によって途中で止まってしまいますが、その箇所を飛ばす(スキップ)させることで、短いジストロフィンを産生させるようにする薬です。いわゆるベッカー型筋ジストロフィーになり、DMD症状が緩和されます。

遺伝子 (DNA) → RNA → タンパク質 の流れについて
 ここで、DNAからタンパク質がどのようにできるかについて、簡単に説明します。

 DNAとは遺伝情報を持つエクソンおよび遺伝情報を持たないイントロンから成ります。タンパク質というのは、様々な機能をもつ物質のことで、例えばジストロフィンの様に細胞を支える、などです。
 DNAはそのタンパク質の設計図で、RNAはDNAから無駄をなくして洗練した設計図のことです。DNAからRNAがつくられることを転写 (transcription)、RNAからタンパク質ができることを翻訳 (translation)と呼びます。

 ジストロフィン遺伝子変異はこの転写がうまくできなくなってしまうため、翻訳もできるずにタンパク質、すなわちジストロフィンができなくなってしまいます。エキソン・スキップ治療薬は、転写がちゃんとできるようにする、という薬です。

DMD治療薬NS-065/NCNP-01の医師主導の早期探索的臨床試験の結果

 本試験はNS-065/NCNP-01(エクソン53スキップ治療薬)をヒトに対して投与した初めての治験になります。

 エクソン53 スキップにより改善が見られそうなDMD患者(6~16歳)10人に、薬を週1回、合計12週間投与を続けました。

 その結果、薬の安全性については重篤な副作用の例はありませんでした。薬効については、薬の投与前後で筋生検を採取して解析したところ、エクソン53スキップによりジストロフィンのRNAが薬の用量依存的に発現し、ジストロフィンタンパクについても有意な増加が見られました。

ジストロフィンのRNA発現解析
  RT-PCR法によるRNA発現解析では、一人のDMD患者さんにおいて、薬投与前ではジストロフィンのRNA発現が0.3% (健常者を100%とした場合) に対し、薬投与後には47.8%と大きく回復していました。

 他の患者さんでも、低用量では平均0.8%程度、中用量では平均2.7%程度、高用量では平均3.9%程度(上述の患者さん1名を除く)と用量依存的な回復が見られました。

ジストロフィンのタンパク質発現解析
 筋組織切片の免疫染色法によるタンパク発現解析では、RNA発現解析において顕著な回復が見られた1名の患者さんにおいては、薬投与前ではジストロフィン発現が0.8% (健常者を100%とした場合) に対し、薬投与後には17.5%と大きく回復していました。さらに、同患者さんにおいて、ウェスタンブロットによるタンパク発現解析においても、薬投与前ではジストロフィン発現が 0% (健常者を100%とした場合) に対し、薬投与後には8.1%と大きく回復しました。

 他の患者さんでも、筋生検の免疫染色法による解析では、低用量ではジストロフィンタンパク質の回復は見られませんでしたが、中用量・高用量ともに1.0%程度の回復が見られました。

結論・感想

 本試験は、ヒトに対する初めてのNS-065/NCNP-01の治験であり、DMD患者に対して、副作用は特になく、エキソン53のスキップに成功し、ジストロフィンのRNAやタンパク質の発現回復が見られました。

今回のRNA・タンパク質のデータにおいて、数値だけみると

「たった数%でそんなに変わるのか?」

と考える人もいると思います。

そんなに変わります!

この数%で全く歩けなかったのが、歩けるようになるのです。横隔膜がやられて人工呼吸器が必要になることもなくなるかもしれません。

 NCNPの現理事である武田先生は日本筋学会をつくった方であり、私は毎年筋学会で筋ジストロフィーのお話を聞いて勉強しています。エクソンスキップ治療薬は海外でいくつか治験が実施され、あまり効果が見られないなどでダメになっているので、このNS-065/NCNP-01はこのまま順調に進んでいってほしいですね。

 もちろん今回の薬はエクソン53 を標的としているので、対象にならないDMD患者さんも多くいるかと思います。けれど、この薬が承認されることで、その技術を応用して他のエクソンを標的とした薬ができたり、複数のエクソンを標的とした薬を混合して使用したり、など筋ジストロフィーの治療薬の研究が一気に進むことが期待されます。

コメント

  1. […] […]

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